‐アメノコヤネ ‐

 

~「アメノコヤネ」とは奈良県の奈良市春日野町にある、日本全国で約3,000社を数える春日神社の総本社春日大社」の御祭神「春日大神」(かすがのおおかみ)四柱一柱として古来より人々に慕われてきた神で、藤原氏氏族における祖神であり氏神です。別名として「アマノコヤネ、天児屋命、天屋根命、天之子八根命、天兒屋命、ワカヒコ、カスガマロ、春日権現(かすがごんげん)春日大明神(かすがだいみょうじん)」などもあります。

 

 

日本神話においては「天岩戸」の項で最初に登場します。太陽神・アマテラス(天照大御神)がその声に聞き惚れ、ついに「天岩戸」を開けてしまったというほど美しい声の持ち主で、天上界で第一位の「祝詞の神」であったと伝わっています。その後「天孫降臨」の項ではアマテラスの孫神・ニニギ(瓊瓊杵尊)の共として随伴したとあり、古代日本においては天皇家祭祀をつかさどった中臣氏の祖神です。

 

 

日本神話「天岩戸」の項では、洞窟の奥に引きこもってしまったアマテラスを誘い出すためにどうしたらよいものかと神々は相談します。そしてオモイカネ(思金神)が用意周到に作戦を立てて、みなで祭祀を行うことになります。準備を整えたあと、アメノコヤネがフトダマ(布刀玉命)と共に「太占-ふとまに」という古代の占いを行い、その祭祀を行うのに最もよい日時を決めました。「太占」とは、牡鹿の肩の骨を焼き、そこに入った亀裂(きれつ)の形によって物事の吉凶(きっきょう)を占うというもので、太古からある的中率の高い占術のひとつです。

 

天岩戸を開ける当日。いよいよ祭祀が始まると、アメノコヤネが美しい声で「祝詞-のりと」を奏上して、女神アメノウズメが舞い踊り、天岩戸の陰には剛力の神アメノタジカラオが控えます。歌えや踊れやと祭祀を盛り上げてアマテラスの関心をひきつけると、アマテラスが少しだけ天岩戸を開けて外の様子を見ようとしました。このタイミングを待っていたアメノタジカラオが天岩戸をこじ開けて、神々はついに天岩戸の奥からアマテラスを出すことに成功しました。その後のアメノコヤネはというと、次は「天孫降臨の項でアマテラスの孫神ニニギに「五伴緒-いつとものお」の筆頭として付き添い地上の国「葦原中国-あしはらなかつくに」へ降り立ち、宮廷の祭祀を司る「中臣連-なかとみのむらじ」の祖先となります。

 

 

Copyright (C) 神社本庁

 

時を経て、後裔の「中臣鎌足-なかとみのかまたり」が「大化の改新」で中大兄皇子(のちの天智天皇)の腹心としてその中心人物となり、活躍したこともあって薨去の間際に天智天皇から「藤原」の姓を賜ります。そして鎌足の死後に残された一族が「藤原氏」を称するようになりました。ここで中臣鎌足は藤原鎌足になり、日本史における「藤原氏」が誕生することになります。中臣氏はとりわけ天皇の即位式である「践祚-せんそ」や「大嘗歳-だいじょうさい」で重要な役割を担っており、その祝詞は「中臣寿詞-なかとみのよごと」と呼ばれていました。この「中臣」とは「神と人との間を取りもつ役割」という意味で、感謝や願いを神々に届けるため祝詞を奏上していたと伝わります。

 

祝詞の神「アメノコヤネ」の御神徳/御利益は、出世開運・合格祈願・家内安全・産業繁栄・国土安泰~所願成就・大願成就と幅広く、さらにアメノコヤネが本気になれば「不可能が無い陰の最強神」とさえ伝わります。それは、八百万(やおよろず=とても多くの意)の天津神国津神・その他の神々、ほぼ全ての神々に「祝詞」をもって自由自在に意を伝えることが可能な唯一無二の神だからである、とされてきました。太陽神・アマテラスを復活させたのがアメノコヤネの祝詞なら、処遇に怒って高天原で大暴れしたスサノヲ(素戔嗚尊)を捕えて追放したのも、やはりアメノコヤネの祝詞だったからです

 

なおこの「アメノコヤネ」から「中臣鎌足-藤原鎌足」までの系図は、現在でも幾つかの方法で確認することができます。例えば「日本家系・系図大事典(奥富敬之著 東京堂出版 2008)系図纂要 新版」第2冊上 藤原氏(岩沢愿彦監修 名著出版 1990)国史大系58 尊卑分脈(黒板勝美編輯 吉川弘文館 1966)などにも、アメノコヤネからはじまる中臣氏の系図を見ることができます。

 

 

※春日大社では、古来より皇室将軍家の祈願所として七日間にも及ぶご祈願を続けるご祈祷法が伝わっています。現在でも春日大社では「小祈祷〜特別大祈祷」までの祈祷が選べるようになっており、例えば「中祈祷」でご祈願を受けられると、祈願当日だけではなく翌日から毎朝一週間に亘り祈祷が行われ、これを終えると「満願のお知らせ」が届きます。日本全国に数あるお社の中でも春日大社ならではの特徴です。