- 尾田栄一郎×神話の世界 -

 2022/08/31

 

この原稿を書いているのは少年少女たちが夏休みを楽しむ8月中旬なのだが、今日は東京の自宅からほど近い児童養護施設の子供たちからワンピースファン有志を募り『ONE PIECE FILM RED』というアニメ映画を観てきた、その翌日である。

 

そこで今回は、ワンピース原作者の尾田栄一郎氏が作品作りの世界観として参考にしている「神話の世界」を題材にしてみようと思う。

ちなみに。この作品はかなりの長寿マンガなので、集英社の少年ジャンプ1997年第34号:連載「第1回」の頃から読んでいるようなファン層はもう立派な大人、それこそ当時中学生なら中年世代である。

 

このワンピース、じつは「日本神話」をはじめとする世界中の有名な「神話」をモチーフにしている場面がとても多く採用されており、逆に神話の不足部分を補完するようなストーリーもあるので、じつは一部の神心修道の士たちにとっては、なかなかユニークな教材にもなっているのがおもしろいところだ。

 

 

だが、このようなケースは世間を見渡すとけっこう多くあるもので、例えば「アマテラス・ツクヨミ・スサノヲ」の三貴神をモチーフに「もしかしたらこうだったんじゃないか?」という小説もある。その中から、今日はこんな無名の作品を紹介しておこう。

 

 

タイトルは「太陽と月と星」である。

 

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「太陽と月と星」

 

この国で起こった本当のできごと、かもしれない。

 

この世には、触れてはいけないもの、触れるとまずいもの、触れると怒られてしまうもの… が、ある。

そういうものにこそ重大な真実が隠されているのかもしれない。

 

平成19年(2006年)第125代天皇の御世。

 

当時の内閣総理大臣「小泉純一郎」は、皇室典範の改正を目指し、法案を提出しようとしていた。この法案が通ると、女性天皇の即位が可能になるばかりか、「女系」の天皇も認められるようになる。

 

「女系」とは、「母親が皇族なら、父親は一般人でもOK」というパターンの皇位継承。

現在までの歴代天皇は全て「男系」である。父親は常に皇族だったわけで、何人か存在した女性天皇も、父親が皇族の「男系」だ。

 

「ずっと男系」ということは、初代天皇の「Y染色体」を歴代の天皇は受け継いでいたことになる。逆にもし「ずっと女系」だったら、初代天皇から「ミトコンドリア」を連綿と継承していたろう。

 

「男系」にこだわるべきか、「女系」を容認すべきか?右よりの保守人はもちろん「男系」支持が多いが、漫画家の小林よしのり氏のように「女系」を主張する人もいる。激論飛び交う中、改正案はついには消滅となった。

 

2月8日、秋篠宮妃紀子(あきしの の みやひ きこ)さまのご懐妊が明らかとなり、その後に無事に、男子をご出産されたからである。このタイミングでのご懐妊は、まさに神がかっていた。

 

日本皇室は何か「人間でないもの」の力によって守られているかもしれない… この時に思った。

そして皇室を守護している者の意志は「男系」にあるわけだ。

 

 

さて、時代をさかのぼり、はるか昔々の太平洋…

 

インドネシアから飛び石のように島々を伝い、東へ。フィジーやタヒチ、モアイ像で有名なイースター島を経由して、アメリカ大陸に至る「海の道」があった。

 

それが太平洋の道=パシフィック・ロード。

 

インカ、マヤ、アステカといった文明を築いた人々の祖先は、この海の道を伝って、アジアからアメリカ大陸に渡った… 

 

一方、インドネシアから西の方へ進むと… 

インダス文明を築いたドラヴィダ人が移り住む南インドをかすめ、さらにモルディブやセイシェルを伝って、アフリカ東岸やマダガスカルにも渡れる。

 

この道が、インド洋の道=インディアン・ロード。

 

古代の赤道地帯に、こんな「海の道」があって…海のジプシーのような海洋民族が、星と月と太陽だけをたよりに、自作のカヌーを漕いで自由に行き来していた。

 

このパシフィック・ロードの中心あたり、現在ポリネシアと呼ばれる海域の北部、とある島を本拠地として、太陽神を崇拝する強大な部族があった。この部族を治めるのは代々、女である。

 

海の民の女王にして、太陽に仕える巫女。ただ当時の女王は、まだ少女といっていいくらいの年齢で、そう…17才くらい。

 

腰巻と装身具以外は、全裸である。肌には、全身に刺青が踊る。刺青の題材は、様々な海の生き物。波を模した不思議な文様が、それを取り囲む。

 

腹筋の引き締まった、スラリとした肉体からエネルギーがあふれんばかりで、無邪気で輝くような笑顔は、まさしく「太陽」である。

 

この女王には、2人の弟がいた。そして2人とも、この姉に恋をしていた。

 

上の弟は美しかったが、やせて病弱。赤ん坊のころから姉といっしょに、ひとつ屋根の下で暮らし、年頃になると、当たり前のように肌を重ねた。

 

姉が女王の位を継ぐと、この弟もいっしょに王宮へ移り、引き続き「同棲生活」を送った。古代世界である。性に関しては開放的、やましいことなんて何もない。

 

しかし、姉の権威をかさにきて、弟は過ちを犯した。ふとした弾みで、姉に仕える大事な侍女を、殺してしまったのである。

 

姉はたいへん怒り、弟と絶交した。2度と会うことは許されない。しかも小屋に軟禁され、皆が寝静まった夜にしか外に出してもらえない弟であった。

 

うちひしがれて毎日を暮らす弟を慰めたのは、額に星の刺青をした「魔術師」だった。この魔術師はインディアン・ロードを通って、

はるか西の国から流れてきた者で、星占いに通じ、王宮では賓客として扱われている。

 

魔術師が言う、あなたは「月」になりなさいと…

 

つまり魔術を学び、夜の世界の支配者となって陰から愛する姉を、そして「太陽の巫女」を守るのです。そうすれば、いつの日か女王はあなたを許し、再び結ばれる時がくるかもしれない。

 

もし… 

 

今の一生で、それがかなわないとしても。あなたは魔術の力で転生し、千回でも八千回でも転生を続け、女王の子孫を未来永劫、守護しなさい。細かい石が固まって大きな岩となり、その岩に苔が生えてくるような長い年月の果て… 

 

女王の子孫の治める国が「常世(とこよ)の国」となる時…「太陽の巫女」は、地上に復活するでしょう。その時こそ…すでに「巫女」ではなく、「太陽の女神」となっている姉は、あなたの愛を受け入れる…

 

私は、どんなことでもしましょう… と、弟は言った。

 

愛するあの方の世が、千年でも八千年でも続くように。細かい石が固まって大きな岩となり、その岩に苔が生えてくるような長い年月の間…あの方の子孫が治める国が、繁栄するように。

 

では、まず始めに、何をすれば?

 

そう… 

 

魔術師は、天を仰いで言った。まずは、「月の読み方」から…魔術師は謎めいた微笑を浮かべ、弟を見つめた。私は、あなたのお供をいたします。「月」と「星」は、同じ天に輝くのだから…

 

 

もう一人の下の弟は、甘えん坊で泣き虫で、死んだ母に会いたいと、いつも泣いてるような男の子だった。母に代わって愛情を注いでくれた姉を慕うようになり、成長するにつれ、それは淡い恋に変わった。

 

しかし、姉が女王の地位につくと、会うのもままならなくなり、その寂しさから、しだいに心が荒れ、乱暴者になっていった。姉も、不良になった弟を、うとましく思うようになった。

 

ある時、久しぶりに姉に会いに王宮を訪れると、兵士たちに取り囲まれた。姉は、弟が王宮に殴り込んできた、と思ったのだ。そこまで、弟に対する不信感は、大きくなっていたのである。

 

潔白を証明するための危険な儀式を行い、なんとか疑いを晴らした弟だが、言いようのない怒りが胸にくすぶり、その日から、さらに荒れた。神殿に動物の死体を投げこんだり、王宮に忍びこんで大便をしたり。かばいきれず精神的に疲れてしまった姉は、とうとう引きこもってしまい、トラブルメーカーの弟は永久追放となった。

 

数日分の水と食料だけを積んだカヌーに乗せられ、大海原へと流される。姉にとっても部族にとっても、忌まわしい存在となった弟は、赤道を西へ流れる海流に運ばれ、フィリピン諸島の東部から北上する「黒潮」に乗った。

 

どこに流されてるんだろう… 

 

ま、そのうち、どこかに着くだろう。舟底にごろんと横になり、弟は涙をぬぐった。もう2度と、故郷を見ることはあるまい。

2度と、姉さんに会うこともないだろう…

 

海面を、キラキラ光る生き物が浮遊している。セグロウミヘビという、海蛇である。コブラ科に属する毒蛇で、肉も毒があって食用にならないが、生息範囲がアフリカ東岸からアメリカ西岸までと「海の民」の移動する領域とかぶっているため、どこに行っても姿を見かける、彼らにとって慣れ親しんだ生き物だった。

 

このセグロウミヘビも、弟の乗った小舟とともに、「黒潮」にのって、北へ運ばれている。弟はこの毒蛇を、旅の道づれのように感じていた。なんだか、少し元気が出てきた。

 

よし…どこに流れつこうと、そこで大暴れしてやる。そして、自分の国を作り上げる。姉さんを見返すほどの、りっぱな王になってやる。これが、俺の旅の始まりなんだ…

 

しかしこの旅は、彼の想像を遥かに超える、長い旅となる。二千数百年を越える、長い旅に…

 

 

出雲大社の神在祭(かみありまつり)では今日も、黒潮に乗って海岸に流れ着いたセグロウミヘビを「竜蛇さま」と呼んで、神前に奉納している。

 

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このストーリーは一部読みやすいように元原稿が校正されているのだが、どうだったであろうか。わたしはこの無名作品がけっこう好きである。作者は在野のまだ無名な作家さんなのだが、じつは案外、こんな感じの日々が三貴神の真実だったかもしれないな、などと思わせるだけの筆力が秘められている。

 

もしこの続きを読みたいという人が多くいたら、次回以降のアメノマナイでまた続きを紹介しよう。

 

 

秀麻呂